博多織求評会 受賞作品|解説
博多織求評会(はかたおりきゅうひょうかい)は、博多織工業組合が主催する博多織の新作発表・品評会です。
毎年、博多織の織元や作家が新たに制作した作品が出品され、専門家や業界関係者による審査を通して、優れた作品にさまざまな賞が贈られます。
会場となるのは、博多織発祥の地として知られる承天禅寺。
長い歴史を持つ博多織ですが、求評会に並ぶのは、その年に生まれた新しい作品です。
そのため、博多織求評会は、伝統を受け継ぎながら、現在の博多織がどのようなものづくりをしているのかを見ることができる場所でもあります。

博多織求評会で評価されるもの
求評会では、帯の色や柄だけではなく、意匠、織技法、素材の使い方、完成度など、さまざまな要素から作品が評価されます。
一見すると同じ「博多織の帯」でも、使われている織組織や糸、意匠によって表情は大きく変わります。
だからこそ、受賞作品を詳しく見ていくと、博多織の技術やものづくりの奥深さが分かります。
筑前織物の博多織求評会 受賞作品
筑前織物も、これまで数多くの博多織求評会に作品を出品してきました。
その中には、最高賞である内閣総理大臣賞をはじめ、さまざまな賞を受賞した作品があります。
ここでは、筑前織物の受賞作品を一つずつ取り上げ、
- どのような作品なのか
- どんな意匠なのか
- どのような織技法が使われているのか
- なぜその技法を選んだのか
- どのような思いで制作したのか
- 求評会でどのように評価されたのか
まで、できるだけ詳しくご紹介していきます。
第123回博多織求評会 内閣総理大臣賞 紋八寸なごや帯「隆毘間道」
第123回博多織求評会において、筑前織物の紋八寸なごや帯「隆毘間道(りゅうびかんどう)」が内閣総理大臣賞を受賞しました。
一見すると、上品な色使いと花の意匠が印象的な一本。
しかし、この帯の魅力はデザインだけではありません。
その表情の奥には、博多織が培ってきた織技術と、現代の着物に合わせるための工夫が幾重にも込められています。
今回は、「隆毘間道」がどのように表現され、なぜ評価されたのか。その背景を少し深くご紹介します。

3つの織組織を組み合わせて生まれる立体感
「隆毘間道」の大きな特徴の一つが、平織り・綾織り・朱子織りという三つの織組織を組み合わせていることです。
平織り、綾織り、朱子織りは、織物の基本となる「三原組織」と呼ばれるもの。
それぞれ糸の組み方が異なることで、布の表面に違った表情が生まれます。
「隆毘間道」では、この3つの組織を一つの作品の中で組み合わせることで、単純に柄を描くだけでは生まれない、立体感や素材感のある表情を作り出しています。
同じ糸を使っていても、織組織が変わることで見え方が変わる。
これが、この帯の面白さの一つです。
博多織らしい「経糸」の表現を生かしながら
博多織といえば、経糸を密に使ったしっかりとした織りが大きな特徴です。
「隆毘間道」も、その博多織らしい経糸の表現をベースにしています。
そこへ紋織による複数の織組織を組み合わせることで、一色だけでは表現できない多色の表情を生み出しています。
色を重ねるだけではなく、織りそのものによって色や光の見え方を変える。
そのため、帯を少し動かしたときにも、表面にさまざまな表情が現れます。
さらに「もじり織」で奥行きをつくる
「隆毘間道」には、さらにもじり織も取り入れています。
もじり織によって生まれる透け感や織りの変化が、表面にさらなる奥行きを与えています。
近年は、暑い時期が長くなり、着物や帯にも「見た目の涼しさ」が求められるようになっています。
そこで、しっかりとした博多織らしさを残しながら、もじり織を取り入れる。
伝統的な織の強さと、現代の季節感を両立させる。
それも「隆毘間道」に込めた考えの一つです。
花の意匠を引き締める「金色」の縁取り
この帯を見たときに、もう一つ印象に残るのが花のデザインです。
花の部分には、あえて金色の縁取りを施しています。
これによって花の輪郭が際立ち、全体のデザインが引き締まりました。
さらに金色を加えることで、帯全体に高級感と品のある華やかさが生まれています。
派手さを追求するのではなく、細かな部分にアクセントを置くことで、帯としての存在感を高めています。
こうした意匠上の工夫も、今回の評価につながったポイントだと考えています。
「今の着物」に合わせる博多織
「隆毘間道」を考えるうえで、もう一つ意識したのが、現在の着物を取り巻く環境です。
近年、呉服市場ではフォーマル帯だけではなく、日常のおしゃれ着物に合わせるカジュアルな帯の存在感が大きくなっています。
もともと博多織には、献上柄だけではなく、自由な意匠を楽しめる「おしゃれ帯」という文化があります。
だからこそ、博多織が持っている技術を現代の着物スタイルに合わせていく。
「隆毘間道」は、そうした流れにも合った作品だったのではないかと考えています。
帯は「見た目」から選んでいい
着物や帯を選ぶとき、まず見るのは色や柄ではないでしょうか。
「この色が好き」
「この柄が好き」
「手持ちの着物に合いそう」
もちろん、それでいいと思います。
帯は身につけるものだからこそ、まず自分が「好き」と思えることが大切です。
でも、もしその帯がどのような技術で織られているのか、なぜこの柄になったのか、どんな思いで作られたのかまで知ることができたら、同じ帯でも少し違って見えてくるかもしれません。

一枚の帯には、たくさんの物語がある
「隆毘間道」も、ただ花の柄を織った帯ではありません。
平織りをベースに、綾織り、朱子織りを組み合わせる。
紋織によって多色の表現を生み出す。
さらに、もじり織によって奥行きと涼しげな表情を加える。
花の輪郭には金色を取り入れ、全体を引き締める。
そして、現代の着物に合わせやすいおしゃれ帯として仕上げる。
一つひとつの選択が重なって、一本の帯になっています。
それを知ったうえでもう一度「隆毘間道」を見ると、最初に見たときとは違う表情が見えてくるのではないでしょうか。
博多織は、柄を見るだけでも楽しめます。 でも、その柄の向こうにある「技術」と「ものづくりの背景」を知ると、もっと面白くなります。
「隆毘間道」が内閣総理大臣賞を受賞した背景には、伝統的な博多織の技術を大切にしながら、現代の着物に合う新しい表現へ挑戦した、そんなものづくりがあります。
筑前織物では、これからも博多織求評会の受賞作品について、作品のデザインだけでは分からない、織りの技術や制作の背景まで詳しくご紹介していきます。
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