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博多織ができるまで①|すべての始まりは「意匠」から

博多織ができるまで①|すべての始まりは「意匠」から

絵の具にてはつる

この帯も、あの帯も。
博多織求評会で内閣総理大臣賞を受賞した帯も。

一見すると、それぞれ違った色や柄を持つ博多織ですが、すべてに共通する「始まり」があります。

 

それが、意匠(いしょう)です。

完成した帯を見れば、まず目に入るのは柄や色、光沢、織りの表情。

しかし、その一枚が織機にかかるまでには、実はたくさんの設計があります。

「どんな柄にするのか」だけではありません。

 

どのような組織で織るのか。
経糸と緯糸をどう組み合わせるのか。
どの色を使うのか。
織り上がったときに、どのような表情に見せるのか。

 

こうしたことまで考えて、一枚の織物を設計していきます。

今回は、博多織ができるまでの最初の工程である「意匠」について紹介します。

 

 

「意匠」は、単なるデザインではない

意匠という言葉を聞くと、「帯の柄をデザインすること」と思うかもしれません。

もちろんデザインは重要です。

しかし、博多織における意匠は、それだけではありません。

意匠とは、デザインを実際の織物として成立させるための設計です。

柄を描き、その柄を経糸と緯糸の交わりに置き換え、さらに組織や色を決めていく。

つまり、

デザインと製織をつなぐ設計図

ともいえます。

完成した帯からは見えない部分にこそ、意匠の仕事があります。

 

ラフデザイン

はつり

サンプル織り出し

 

すべては一枚のラフから始まる

意匠の最初は、デザイナーが描くラフ案です。

自然の風景。

さまざまな資料。

日常の中で目にしたもの。

ふとした閃き。

そして、呉服業界で多くのお客様と接する営業から寄せられる声。

 

 

こうしたさまざまな情報をもとに、デザインを組み立てていきます。

デザイナーの頭の中には、最初からある程度の色や構成、完成したときのイメージがあります。

まずは手描きでラフを作り、形が固まってくると清書へ。

 

 

昔は方眼紙に絵の具などを使って描いていたといいます。

現在ではパソコンを使う工程も増えていますが、最初に生まれるのは「こんな織物をつくりたい」という人の発想です。

 

なぜ、普通の絵をそのまま織れないのか?

ここからが、意匠の面白いところです。

完成した帯の柄を見て、「この絵をそのまま織ればいいのでは?」と思うかもしれません。

しかし、織物は絵画とは違います。

織物は、経糸と緯糸が交わることで柄をつくります。

そのため、デザインをそのまま画像として織機に渡すことはできません。

デザインを、織物の仕組みに合わせた「方眼」に置き換えていく必要があります。

ここで関係してくるのが、機仕掛けです。

 

 

織機の仕組みや使用する経糸の本数、針に入る経糸の本数などによって、方眼の比率も変わります。

つまり、同じ柄でも、どの機仕掛けで織るかによって、意匠の設計そのものが変わることがあります。

 

 

「円」を描くことから始まる「はつり」

意匠を学ぶ際、まず練習するものの一つが「円」だといいます。

なぜ円なのでしょうか。

正方形の方眼であれば、円は比較的描きやすい。

ところが、経糸と緯糸の関係によって方眼が縦長や横長になると、そのまま円を描いてしまえば、織り上がったときに円には見えません。

そのため、方眼の一つひとつを数えながら、織り上がったときに正しい形になるように、あらかじめ形を変えて描いていきます。

この作業を、現場では「はつり」「はつる」と呼びます。

紙の上では少し歪んで見える形が、実際に織り上がると美しい円になる。

ここには、織物ならではの考え方があります。

 

 

描いた形と、織り上がった形は同じではない。

だからこそ、意匠には経験が必要になります。

そしてデザインによっては、100万マス単位の方眼を一つひとつ扱うこともあります。

完成した帯からは想像しにくい、膨大な作業です。

 

 

方眼から「組織分解図」へ

はつりが終わると、次は組織分解図をつくります。

ここから、デザインはさらに「織物の設計」へと変わっていきます。

織物には基本となる三つの組織があります。

平織・綾織・繻子織。

実際の博多織では、こうした基本組織を応用し、それぞれのメーカーが持つ組織表などをもとに、さまざまな表現をつくっていきます。

組織分解図では、柄のどの部分をどの組織で織るのかを、一つひとつ設計します。

ここで重要なのは、組織が単に「織れる・織れない」を決めるだけではないということです。

組織を変えることで、

 

  • 光沢感
  • 奥行き
  • 凹凸
  • 表面の変化
  • 光の反射

 

など、織物の表情そのものを変えることができます。

つまり博多織では、

「何を描くか」だけでなく、「どう織って見せるか」もデザインの一部

なのです。

 

 

色見本の色が、そのまま織り上がるわけではない

意匠では、もちろん色も設計します。

各メーカーが持つ色見本などから色を選び、全体の配色を組み立てていきます。

ところが、ここにも織物ならではの難しさがあります。

 

 

色見本で見た色が、そのまま織り上がるわけではありません。

なぜなら、織物は経糸と緯糸が交わってできるからです。

例えば、黒い経糸と白い緯糸を組み合わせれば、黒と白がそのまま見えるのではなく、見る人にはグレーに近い色として感じられることがあります。

さらに、組織が変われば光の反射も変わります。

同じ糸色を使っていても、組織の違いによって見え方が変わる。

そのため意匠では、

「この色を使う」だけではなく、「この糸とこの糸を、この組織で組み合わせたら、最終的にどんな色に見えるか」

まで考えて色を選びます。

ここは、実際の製織経験や過去の制作経験がものをいう部分です。

 

意匠は「織れるかどうか」まで考える

デザインが美しくても、それだけでは博多織にはなりません。

実際に織機で織ることができるのか。

経糸と緯糸の関係は成立しているのか。

組織に無理はないか。

色の組み合わせは、狙った表情になるのか。

意匠では、こうしたことを一つずつ確認しながら設計を進めます。

だから意匠担当者には、デザインを見る力だけでなく、織物そのものを理解する知識と経験が求められます。

 

 

昔の「紋紙」から、現在のデータへ

意匠が完成すると、次は織機で使うためのデータへと変換していきます。

現在はパソコンを使ってデータを作成することが一般的ですが、昔は**紋紙(もんがみ)**という紙を使っていました。

紋紙には、織機を動かすための情報が穴として記録されています。

専属の職人が一枚一枚穴を開けて紋紙を作っていた時代には、柄の長さや複雑さにも物理的な制約がありました。

現在はデータ化が進み、より複雑な柄や長い柄にも対応できるようになっています。

技術が変わっても、

意匠を織機が理解できる情報へ変換する

という役割は変わりません。

 

 

最後に「指図書」をつくる

そして、意匠の工程の最後に作成されるのが指図書です。

そこには、意匠データや色番など、実際の製織に必要となる情報がまとめられます。

デザインだけでは、帯は織れません。

組織だけでも、帯は織れません。

色だけでも、帯にはなりません。

それぞれの情報を一つにまとめ、織り手が製織できる状態にする。

そこまで設計されて、ようやく意匠は次の工程へ引き渡されます。

そして、ここから実際に経糸と緯糸を組み合わせる「製織」へと進んでいきます。

 

 

一枚の帯には「見えない設計」がある

完成した博多織を見ると、私たちは柄や色、光沢、手触りを楽しみます。

しかし、その一枚が生まれるまでには、

 

デザインを考える。
ラフを描く。
機仕掛けに合わせて方眼へ落とし込む。
はつる。
組織を設計する。
色を組み合わせる。
織機で成立するデータへ変換する。
指図書にまとめる。

 

という工程があります。

そして、そのすべてのスタート地点にあるのが「意匠」です。

博多織は、織機に糸をかけて初めて始まるわけではありません。

その前に、すでに一枚の帯をつくるための設計が始まっています。

 

一枚の博多織の中に見えているのは、完成した柄だけ。
その裏側には、方眼、組織、色、糸、そしてつくり手の経験が積み重なっています。

 

博多織ができるまで。

その最初の一歩は、一本の糸ではなく、一枚の意匠から始まります。

 

 

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