意匠をつくり、組織を設計し、経糸を準備する。
整経、糸繰り、経継ぎ、管巻き――。
さまざまな準備工程を経て、ようやく「製織」に入ります。
ここから、経糸と緯糸が交わり、一枚の帯になっていきます。
「帯を織るのに、どれくらいかかりますか?」
工場見学などで、よくいただく質問です。
製織だけを見れば、一本の帯を数日で織り上げることができます。
しかし、博多織は「織る」だけで完成するものではありません。
意匠図の作成、組織設計、経糸・緯糸の準備、整経、糸繰り、経継ぎ、管巻きなど、製織に入るまでにも多くの工程があります。
新しい帯を一からつくる場合、製織までの準備に3か月から半年ほどかかることもあります。
実は、帯を織る時間よりも、織るための準備に多くの時間がかかっているのです。

博多織の製織|一台一台、個性の違う織機
筑前織物の周船寺工場には、さまざまな機仕掛けの織機があります。
袋帯、佐賀錦、おしゃれ帯、夏帯、男帯、紋小袋など、織るものによって必要となる機仕掛けも異なります。
例えば、紋八寸名古屋帯でも、組織を活かした素材感を重視するものと、細かく複雑な意匠を表現するものでは、織機の仕掛けが変わります。
同じ織機でも、一台一台に特徴があります。
そのため織り手には、単に織機を操作するだけではなく、その機がどのような仕掛けで、どのような織りを得意としているのかを理解することが求められます。
経糸と緯糸。その状態を見極めながら織る
織物の基本は、経糸と緯糸の交差です。
経糸は織物の縦方向に張られ、緯糸はそこに横方向から入っていきます。
しかし、きれいな織物にするためには、ただ経糸と緯糸を交差させればよいわけではありません。
特に重要なのが、経糸の張り具合、つまりテンションです。
経糸の一本だけ張りが強かったり、逆に弱かったりすると、織り上がりに変化が出ることがあります。
そのため、製織中も経糸の状態を確認しながら、必要に応じて調整していきます。
「今日の機」の状態を読む
製織では、織っている帯だけを見ていればいいわけではありません。
その日の気温や湿度、織機の状態、織っている帯の組織、何本目の帯を織っているのか。
さまざまな条件を見ながら、織り手は機の状態を判断します。
絹糸は繊細な素材です。
そのため、同じ織機、同じ設計であっても、環境や糸の状態によって扱いやすさが変わることがあります。
長年経験を積んだ織り手ほど、そうした小さな変化に気づくのが早い。
それが、トラブルを未然に防ぎ、安定した製織につながります。

織り手は、鏡を見ながら織っている
製織中、織り手が見ているのは帯の表面だけではありません。
帯の下には鏡が設置されています。
この鏡に映った帯の表側を、織機の隙間から確認します。
そこに、キズや段などの異常がないか。
織り上がりに変化が出ていないか。
経糸や緯糸に問題がないか。
織り手は、織りながら細かな変化を確認しています。
織りながら、同時に確認している。
これも、博多織の製織現場を支える重要な作業です。
経糸が切れたときも、ただ結ぶだけではない
製織中、細い絹糸が切れることがあります。
その場合、まず切れた経糸を探します。
そして、その織機で決められている糸の順番に合わせ、新しい糸をつなぎます。
ここでも重要なのがテンションです。
つないだ糸だけ張り具合が違えば、その部分だけ織り上がりに筋が出ることがあります。
そこで、周囲の経糸と同じようなテンションになるよう調整し、必要に応じて重りを使って張り具合を合わせます。
「糸をつなぐ」ことが目的ではなく、「つないだ後も同じ条件で織れる状態に戻す」ことが重要なのです。
織機の音も、品質を見る手がかり
製織は、目だけで行う仕事ではありません。
もし機の動きや音にいつもと違う変化があれば、それも異常を見つけるきっかけになります。
長年織機と向き合ってきた織り手は、目で帯を見るだけでなく、機の動きや音、糸の状態など、さまざまな情報を組み合わせながら製織しています。
だからこそ、経験による「気づき」が重要になります。

ベテランほど、機の変化に早く気づく
工場でよく見られるのが、伝統工芸士を含むベテランの織り手ほど、機の周りが整理整頓されているということです。
必要な道具がすぐに取り出せる。
機の状態がいつもと違えば気づく。
小さな異常にも早い段階で対応する。
長年使用している織機であっても、経験を積んだ織り手が扱うことで、不具合を早く発見し、大きなトラブルになる前に対応できることがあります。
織機は同じでも、織り手によって製織の安定性が変わる。
そこには、長年の経験によって培われた技術があります。

織り上がっても、まだ完成ではない
一本の帯を織り上げても、そこで完成ではありません。
まず、その日のうちに長さを測ります。
そして翌日の朝にも、もう一度長さを測ります。
なぜ二回測るのでしょうか。
それは、織物の組織によって伸縮率が異なるからです。
織り上がった直後と時間を置いた翌日では、帯の長さが変わることがあります。
大きく縮むものもあれば、ほとんど変化しないものもあります。
その帯がどのような伸縮をするのかを確認し、必要であれば製織段階で長さを調整します。
規定の寸法に仕上げるためには、こうした製織後の確認も欠かせません。
長さを測り、重さを測り、そして検品へ。
製織工程を終え、次の仕上げ工程へ進みます。

製織は、織機と帯との「会話」
博多織の製織は、織機に任せて帯をつくるだけの工程ではありません。
経糸のテンション。
緯糸の状態。
織機の仕掛け。
気温や湿度。
織り上がった帯の表情。
そして、機の音や動き。
織り手は、さまざまな変化を感じ取りながら、その都度調整しています。
だから私たちは、製織を「織機と帯との会話」だと考えています。
一台一台異なる特徴を持つ織機と向き合い、その日の状態を見極め、一つひとつの変化に対応する。
そうした積み重ねによって、一枚の帯が生まれます。
そして、織り上がった帯も、まだ完成ではありません。
次は、織り上がった帯を一つひとつ確認し、整えていく「検品・仕上げ」の工程へ。
博多織が完成するまで、もう少し続きます。
▪️博多織ができるまで①|すべての始まりは「意匠」からは、こちらへ
▪️博多織ができるまで②|経糸を作る「糸繰り」と「整経」は、こちらへ
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