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博多織ができるまで⑥|精錬・糸染め(染色)

博多織ができるまで⑥|精錬・糸染め(染色)

絹糸を管理している様子

博多織のものづくりでは、意匠、整経、経継ぎ、管巻き、製織、検品・仕上げまで、さまざまな工程があります。

筑前織物の特徴の一つが、自社一貫生産です。

西陣織などでは、それぞれの工程を専門の職人・事業者が分業してものづくりを行うのに対し、博多織は製造工程を自社で一貫して管理することを基本としています。

ただし、その中で外部の専門職人にお願いしている工程があります。

それが、精錬と糸染め(染色)です。

筑前織物では、専属の染色職人さんにお願いし、一本の帯をつくるための「糸」を仕上げてもらっています。

 

精錬の様子

 

まずは「精錬」。生糸を染められる状態へ

蚕の繭から紡いだ生糸には、セリシンなどの成分が含まれています。

そのままでは染料が入りにくいため、石けんや炭酸ソーダなどを使い、数時間かけて丁寧に不要な成分を取り除いていきます。

これが精錬(せいれん)です。

精錬によって、絹本来の柔らかさや光沢が引き出され、染色を受け入れられる状態へと整えられます。

しかし、ここも単純に「決められた時間だけ処理すれば終わり」という工程ではありません。

生糸の生産国やロット、季節などによって、糸の状態は微妙に異なります。

染色職人さんは、糸の手触りや精錬中の状態を目で確認しながら、時間や条件を調整します。

まさに、生き物のような絹糸を相手にする仕事です。

約600色を支える「筑前織物の色」

精錬が終わると、いよいよ染色です。

筑前織物と染色職人さんの間では、共通の独自の色見本を使用しています。

例えば、

「51番を10カセ」
「105番を24カセ」

というように、色番号と必要なカセ数を指定して染めてもらいます。

現在、筑前織物では約600色近くのベースカラーがあります。

しかも、色見本は一度つくったら終わりではありません。

定期的に見直してリフレッシュしたり、その時代のトレンドや、新しく使いたい色が生まれた時には、参考資料を持ち込んで新しい色をつくることもあります。

伝統色を守りながら、現代の感覚も取り入れる。

そこにも、筑前織物のものづくりがあります。

 

染色の様子

 

「何グラム入れる」では終わらない染色

実際に染色を体験させてもらい、特に印象に残ったのが、色のつくり方でした。

色見本を確認した染色職人さんが、染料をスプーンですくいます。

その量は、細かく計量するのではなく、長年の経験をもとにした目分量。

そして、複数の染料をブレンドしていきます。

なぜ一色ではなく、複数の色を混ぜるのか。

それは、単純な色番号だけでは表現できない「色の深み」をつくるためです。

少し落ち着いた色にするのか。

サビ感を出すのか。

アパレルのような明るさを加えるのか。

求められている色に、どの程度の深さやニュアンスを持たせるのか。

その判断を、職人さんが経験と感覚で調整します。

濡れた糸を見て、乾いた後の色を読む

染料を調合したら、生糸を染めていきます。

そして染め上がった糸を軽く絞り、太陽光の下、電球の下など、異なる環境で色を確認します。

ここが、さらに職人技の見せ場です。

濡れている糸と、乾いた糸では色の見え方が違います。

今、目の前にある色だけを見るのではありません。

「この糸が乾いたら、どんな色になるのか」

完成した色見本を頭の中でイメージしながら、必要であれば再び染料を調整します。

染めて、見る。

調整して、また染める。

その繰り返しによって、求める色へ近づけていきます。

 

 

データだけではつくれない「色」

現代では、さまざまな分野で数値化・データ化が進んでいます。

染色も例外ではありません。

しかし、筑前織物の糸染めの現場で見たのは、数字だけでは表現できない世界でした。

染料をどれだけ入れるか。

糸をどの状態まで精錬するか。

染め上がった糸をどう見るか。

そして、乾いた時にどんな色になるのか。

その一つひとつを、職人さんの目、手、経験、感覚で判断しています。

同じ色番号でも、糸の状態によって微調整が必要になる。

だからこそ、長年の経験がものをいうのです。

 

 

筑前織物の「糸」が完成するまで

こうして精錬と染色を終え、ようやく筑前織物のものづくりに使われる糸が完成します。

次の工程では、この糸が整経され、決められた色・本数・配置に並べられ、博多織の特徴である経糸の表情をつくっていきます。

普段、完成した帯を見ているだけでは分からないかもしれません。

しかし、その一本の帯の色には、

 

生糸の状態を見極める職人の目。
染料を調合する職人の経験。
濡れた糸から乾いた後の色を読む感覚。

 

そうした、数字やデータだけでは置き換えられない技術が詰まっています。

博多織の「色」は、単に染料を混ぜてつくられているのではありません。

 

職人の経験と感覚によって、一色ずつ生み出されているのです。

 

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