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博多織ができるまで②|経糸を作る「糸繰り」と「整経」

博多織ができるまで②|経糸を作る「糸繰り」と「整経」

博多織と聞いて、まず思い浮かぶ柄の一つが「献上柄」ではないでしょうか。

博多献上帯の大きな特徴の一つが、平織による経糸の表現です。

献上柄をはじめ、博多織らしい間道柄には、さまざまな色の経糸が並びます。

もちろん、紋織の帯や着尺にも経糸は欠かせません。

では、この経糸は、どのようにして準備されているのでしょうか。

前回紹介した「意匠」で設計された帯は、すぐに織機へ向かうわけではありません。

次に待っているのが、経糸を準備する「糸繰り」と「整経」です。

 

 

経糸づくりは「指図書」から始まる

意匠が完成すると、製織に必要な情報が「指図書」として次の工程へ渡されます。

そこには、経糸をどのように並べるのか、どの色を何本使うのか、必要なカセ数などが記載されています。

例えば、

  • 青色 12カセ
  • 黄色 8カセ
  • 緑色 40カセ

といった具合です。

この指図書をもとに、まず行うのが糸繰りです。

 

 

まずは「糸繰り」。束になった生糸を使える状態へ

糸繰りとは、カセ状になっている生糸を、コーンや枠などに巻き取っていく作業です。

「糸を巻くだけ」と聞くと、簡単そうに感じるかもしれません。

ところが、実際にやってみると、これがなかなか難しい。

カセ状になった生糸を糸繰り機にセットするときには、糸がスムーズに解けるように準備する必要があります。

少しでも状態が悪ければ、糸繰り機を回した途端に糸が引っ掛かり、切れてしまいます。

そして、糸が切れたら終わりではありません。

 

 

「どこで切れたのか」を探すところから始まります。

ようやく切れた場所を見つけて結び、再び機械を回す。

ところが、切れた糸がほかの糸の下に潜り込んでしまえば、また途中で止まります。

探す。

結ぶ。

回す。

また止まる。

この繰り返しです。

 

 

「絹糸と仲良しになる」

筑前織物では、新入社員がまず糸の結び方を学び、その後、糸繰りを経験します。

そこで大切にしているのが、

 

「絹糸と仲良しになる」

 

という感覚です。

少し不思議な表現ですが、実際に絹糸を扱っていると、糸の状態が少しずつ分かるようになってきます。

どのくらいの力ならスムーズに解けるのか。

どこに引っ掛かりやすいのか。

糸の状態はどうなのか。

単純に機械を回せばいいわけではありません。

糸の動きを見ながら、手を動かす。

そうして絹糸に慣れてくると、糸繰りも少しずつ安定していきます。

「一旦かけた糸が、最後までスムーズに回る」

その感覚を身につけることが、糸繰りの大切な一歩です。

簡単そうに見えて、実は奥が深い。

糸繰りは、絹糸を知るための最初の仕事でもあります。

 

 

糸繰りの次は「整経」

糸繰りが終わると、いよいよ整経(せいけい)です。

整経とは、簡単にいえば、製織に必要な経糸を、決められた本数・順番・長さにそろえて準備する工程です。

博多織では、少ないもので約3,000本。

多いものでは1万本近くの経糸を扱うこともあります。

しかも、ただ同じ色の糸を並べるわけではありません。

指図書に記載された内容に従って、

「この色を何本」

「次にこの色を何本」

というように、色と本数を正確に並べていきます。

献上柄や間道柄など、経糸そのものが表情をつくる帯では、この並び方が柄をつくる重要な要素になります。

つまり、整経は単に「糸をそろえる作業」ではありません。

意匠で設計された柄を、経糸という形に置き換えていく工程なのです。

 

 

数千本の経糸を「一本も間違えず」に

整経では、指図書を確認しながら色ごとの本数を数え、整経機を必要なロット数だけ回していきます。

そして、それを繰り返して一本の経糸をつくります。

ここで求められるのは、正確さです。

数千本の中で、一本でも色や本数を間違えれば、その後の製織に影響します。

特に経糸の色配置が柄そのものになる博多織では、経糸の一本一本がデザインの一部です。

だからこそ、整経は博多織の中でも、特に間違いが許されない工程の一つです。

 

 

もう一つの重要なポイント「テンション」

整経で、本数や色の順番と同じくらい重要なのがテンションです。

ここでいうテンションとは、簡単にいえば、糸にかかる張り具合です。

整経機を回すとき、糸を一定の状態で扱い、できるだけ均一なテンションを保つ必要があります。

例えば、ある部分だけ強い力がかかった状態で整経してしまうと、その時点では糸を並べることができても、製織するときに経糸の状態に差が出てしまいます。

経糸が均一に張られていないと、

「なんとなく織りにくい」
「経糸がつっぱっている」
「製織時の状態が安定しない」

といった問題につながることがあります。

つまり、整経の段階でつくったわずかな違いが、次の製織工程に影響するのです。

「正しく並べる」だけではない

整経の仕事を言葉にすると、

「指図書通りに経糸を並べる」

という一言で表せます。

 

しかし、その一言の中には、

  • 色を間違えない
  • 本数を間違えない
  • 順番を間違えない
  • 糸を切らない
  • 経糸を傷めない
  • 一定のテンションを保つ

 

といった、たくさんの注意が含まれています。

だからこそ、整経には集中力、精神力、忍耐力が求められます。

そして、何千本もの経糸を一つの状態にそろえる経験が、次の製織工程を支えます。

 

 

経糸が、博多織の表情をつくる

博多織の帯を見るとき、私たちは柄や色に目を向けます。

しかし、その柄をつくっているのは、意匠だけではありません。

意匠で設計されたデザインがあり、

その設計をもとに糸を準備し、

色と本数を正確にそろえ、

一本一本の経糸を整えていく。

そして、準備された経糸が、次の製織工程へと渡されます。

特に献上柄や間道柄では、経糸の色と並びそのものが、博多織らしい表情を生み出します。

一見すると、ただ並んでいるように見える何千本もの糸。

その一本一本に、意匠から受け継いだ意味があります。

 

横糸の糸繰りも、重要な仕事

ここまで紹介したのは、主に経糸を準備するための糸繰りと整経です。

一方、緯糸(横糸)にも糸繰りの工程があります。

筑前織物では、横糸専属の糸繰りスタッフが、工場で使用する横糸を一日かけて糸繰りすることもあります。

経糸と緯糸。

それぞれに必要な準備があり、それらが揃って初めて製織へ進むことができます。

 

博多織は「一本の糸」から始まっている

前回紹介した「意匠」では、一枚の帯をどうつくるのかを設計しました。

そして今回、その設計をもとに、実際に糸を準備しました。

 

意匠
↓
指図書
↓
糸繰り
↓
整経
↓
製織

 

まだ帯は織り上がっていません。

それでも、何千本もの経糸が正しい順番で並んだ時点で、博多織はすでに次の姿へ向かい始めています。

一本一本の絹糸を扱い、色をそろえ、本数を数え、一定のテンションで整える。

地道で、目立たない工程かもしれません。

しかし、この正確な準備があるからこそ、次の「製織」で経糸と緯糸が出会い、一枚の博多織になっていきます。

 

博多織の美しさは、織機の上だけで生まれるものではありません。

その土台には、何千本もの経糸を一本ずつ準備する、糸繰りと整経があります。

 

 

 

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